緑内障(りょくないしょう)
1. 緑内障とは-なぜ”緑”かは諸説があります-
眼球の中には光を通す必要があるために血管が通っていません。そこで、血管がないかわりに栄養を循環させる目的で作られるのが“房水(ぼうすい)”です。房水は眼球の中の毛様体突起という部分で作られて、眼球の中を循環して組織に栄養を届けた後に、目の前の角膜と虹彩の間にある“隅角(ぐうかく)”で吸収されます。その房水がスムーズに流れなくなることで、眼球の圧力である“眼圧(がんあつ)”が上昇して視神経とその周囲の網膜血管を圧迫することで、視神経に障害が発生して視野(見える範囲)が欠損してゆくのが緑内障です。
ただし、中には眼圧が正常でも、元々の視神経の組織が弱いために視野が欠損するタイプの緑内障もあり、様々なタイプの緑内障が存在しています。
2. 症状-初期にはわかりにくい視野欠損-
急性緑内障といって、急激に眼圧が上がるタイプの緑内障では急に視力が落ちたり、眼が痛くなることで症状が出るのでわかるのですが、慢性緑内障のほとんどが徐々に視野欠損が進行するため、あまり気づくことがありません。ですので、自覚症状が出てきたときにはかなり視野がかけていることもあり、見逃される場合も少なくありません。また、視神経が障害を受けると神経細胞は再生できないために、欠損した視野は一生そのままとなるため、これが緑内障が見逃されることの危険性でもあります。
3. 治療法
実のところ緑内障が起こってくる原因ははっきりとわかってはおらず、いったん失った視野を取り戻すことはできません。ですので、緑内障と診断された場合、それ以降の進行を止める目的で治療を実施する必要があります。その治療法で、現在において一つだけ医学的に有効であると証明されている治療法が眼圧を下げるということで、それには点眼で眼圧を下げる方法と、手術で眼圧を下げる方法の二つがあります(網膜の血流を改善させることで視神経を守るというような治療法も研究されています)。
①点眼:目薬で眼圧を下げて視野を守ります
まず一般的に行われるのが、眼圧を下げるための点眼継続するということで、その際はもともとの眼圧を基本にして、3割程度眼圧を下げることが推奨されています。当院では緑内障と疑われてから数回程度、眼圧を測定した上で、各患者さんに合った目標眼圧を設定して、点眼を開始していただいています。また、点眼には薬剤の効力が違うものがいくつかありますので、ご本人合った点眼を見つけるために、1剤で目標眼圧に達しない場合は、2剤目を追加したり、合剤といって2種類を合わせたような点眼を使用していただき、眼圧が十分に下がるまで点眼をしていただきます。ここで、重要なのは点眼を一度開始すると一生涯点眼を継続する必要性があるということです。
②緑内障に対する手術:点眼の効果がない場合や少しでも眼圧を下げたい時の選択枝です
上記の点眼で十分に目標眼圧が達成されない場合や、多数の点眼をつけていてもどんどん視野が欠損する場合、ほかにも元々の眼圧がかなり高いために点眼のみでは眼圧を下げるのが困難と思われる緑内障の症例には、より眼圧を下げることも目的として手術を実施する事があります。その手術の基本は、眼球内の房水を眼球のその外に導くための通路を作成する事を目標とした繊維柱帯切除術といったものから、もともとの水の流れを回復させるための隅角形成術や、比較的短時間ですむような1mm程度の機械を挿入するようなシャント(短絡路作成)の手術方法も実施されており、手術方法も時代によってどんどん変遷してゆく状況になっています(当院では繊維柱帯切除術を行っています)。いずれにしても、患者さんの病状によってどの術式が適当かを見ながら決定してゆくことになりますので、くわしくは担当医と相談してください。
4. 病気の経過について
緑内障は加齢現象と一緒で、一度進行し始めると徐々に視野が欠損してゆく病気ですので(視野の欠損があっても進行しない場合は厳密には緑内障ではありません)、進行を止めることが重要です。もし治療しないでそのまま放置しておくと、視野が徐々に欠損してゆき、最後には失明に至ることもあります。ただし、この進行の程度についてはかなりの個人差がありますので、そういった視野の欠損の進行を見る意味でも疑わしいと診断されたら、定期的に視野検査などをしつつ、治療の必要性があるかどうかを担当医と相談してください。
5. そのほか-大事なこと-
過去の大規模な疫学調査で、40歳以上の30人に1人が緑内障にかかっていることが明らかにされています。その中で8割の方には自覚症状がなく、皆さんの目を緑内障から守るためには、早期発見・早期治療が非常に重要です。数年に一回は検診をするとともに、適切に経過観察をすることで、”見える老後”を楽しんでもらいたいものです。